LAST WILL

彼は私のグループで、たくさんの音を作ってくれたのだが、その実構成員としての価値は技術的側面によるものよりも、組織の存続や充実に尽力する姿勢によるところが大きい。

自分は無責任だと公言するほどの自他共に認める奔放ぶりが実にアーティストっぽい彼は、グループのキャラクター原案やアートディレクションを担当した。制作への姿勢に時期によってムラがあるのは玉に瑕だが、コミュニケーションをとるのが苦手なのはお互い様である。

おそらく一番コードを書いているのが彼で、開設当初からゲームプログラムの大半を担当していた。いち早く開発ツールの習熟を始めたのも彼である。自身への自信のなさがモチベーションに影響を与えていたが、反骨心と持続する忍耐は持ち合わせているので、諦めない限りいつまでも伸びるタイプだ。

好奇心旺盛で行動力もあり、読書家で絵も描く。自分のやりたいことはとりあえずやってみる活発性と、面倒な事を率先してやる責任力、そして他人を無償で助ける優しさを揃える彼は、教育者としての素質を十分に持ちながら、将来への可能性を探している。

本人の自覚なきままにヒトの心を惹きつけるプレゼンテーション能力を筆頭に、自らの言動に説得力を付加させることに長ける彼は、有能な部下に出会ったときに真価を発揮するだろう。そうでないときや、障害に煩う局面では、発想の転換が求められるだろう。

音響方面への膨大な知識と、表現への意欲、相手の意見を汲み取る柔軟性により、各工程の問題提起には欠かせない人材の彼。作品を通してうまく表現できないことに悩んでいるようだが、当分必要なのはあとは単純反復と経験による技術力だけだろう。

技術を持たず、経験もなく、なけなしのまとめたい意思と誇大化した表現欲だけを武器に、組織の統括を図った私は、全体の一定の理解を得られることもなく、ただ少数の理解者を残して、組織をゼロに収束させようとしている。その先に1があるのかゼロのままなのかは別として。

世の中への反抗と従属、他人との接近と乖離を繰り返して、傷つきつつも強くなり、鋭くもあれば弱くもあり、今まで会った日本人の中で初めて、自分の意見を他人にはっきり言うという当たり前にするべきことを当たり前にしていた彼女について、今はあまり考えたくないが、ただただ成功を願う。



Souは一度死なねばならない。

魂は一度あらわねばならない。

身体だけも動けるなら

心を空にできるなら

これから先ずっと

なにかをなにかにできるだろう。

これからはずっと

ゼロをカタチにしていけるだろう。